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微生物とヒトの関係

 微生物は、細菌やカビなどのように肉眼では見えない大きさの生物である。微生物は地球上のほとんどの場所に存在しているため、ヒトの生活とは切り離せない存在となっている。例えば、食品は放置すると微生物の代謝によって腐敗または発酵して変質する。また、ヒトの皮膚や粘膜部分には数多くの微生物が共生しており、微生物の働きによって健康が維持される。さらに、ヒトの体内にまで微生物が侵入し感染が成立すると疾患が発症する。そのため、ヒトは微生物と常に相互作用しながら健康を維持して生活しなくてはならない。

 そこで、ヒトは進化の過程で生体防御機構を獲得した。これは微生物を異物として認識して、ヒトの体内から排除するための仕組みである。生体防御機構は、微生物の体内への侵入を防御する皮膚などの非特異的な物理的バリアと、バリアを通過して体内に侵入した微生物を排除する免疫系に分けられる。免疫系はさらに自然免疫と獲得免疫に分けられる。

 このうち自然免疫は、マクロファージや樹状細胞などの貪食作用を示す細胞が担当する、生まれながらにヒトに備わっているシステムである。これらの細胞は自然免疫レセプターを用いて微生物を認識し、すみやかに貪食、排除することができる。自然免疫レセプターは、Toll様受容体 (TLR) やNOD様受容体 (NLR) など多数存在することが明らかになっており、微生物に特有の分子パターン (PAMPs) をリガンドとして認識している。例えば、グラム陰性菌の細胞表層成分であるリポ多糖のリピドAと呼ばれる糖脂質部分や、細胞壁成分であるペプチドクリカンの部分構造を認識することが、合成化学的に証明されている。自然免疫レセプターがPAMPsを認識すると、細胞内でサイトカインと呼ばれるタンパク質を合成し、細胞外に放出することで、体内の他の細胞に情報伝達し、炎症や細胞の分化・増殖などの生体反応を誘導する。

 また獲得免疫は、T細胞、B細胞などが関与するシステムであり、体内に侵入した異物に特異的に反応して後天的に獲得する。これは、樹状細胞が異物を貪食、消化して作成したペプチド断片を抗原提示し、それをT細胞が認識することで開始される。さらにサイトカインの影響下でB細胞が異物に特異的に結合する抗体を産生し、異物の排除に強力に寄与する。抗体産生までには数日の準備期間が必要であるが、一度獲得すると抗体産生能は長期にわたって記憶されるため、同一の異物が再度侵入した際には素早く抗体を産生できる、いわゆる免疫ができた状態となる。ワクチン接種による予防はこのシステムを人為的に利用したものである。

 このように、ヒトは基本的には微生物を体内に侵入させずに、皮膚や粘膜の外側に留め相互作用することで、微生物の機能をうまく利用している。しかし、ヒト-微生物間の相互作用を制御し機能性を発揮させている分子や機構には不明な点がある。我々は、このような生物機能を制御する分子を探索、創成し、医療材料、医薬品、機能性食品等として応用するために研究している。

 

 

【参考文献】
改訂第2版 免疫学最新イラストレイテッド、羊土社(2009)
免疫生物学、南江堂(2013)

   

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